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「この日記の最後のページは、枢木卿が亡くなったあの日、ダモクレス戦が行われた日で終わっています。ですが、ここにはひとつ重大な事が記されているのです」 真剣な眼差しのミレイに飲まれそうになりながら、キャスターは司会を続けた。 「それは一体」 「9月21日には、2枚日記が書かれていました」 「今まで1枚だったのに、その日だけ2枚・・・その内容とは?」 「こちらを見てください」 ミレイが手をモニターに近づけると、ルルーシュ皇帝の顔が映し出されていたその場所に、再び文字が現れた。 *** 9月21日 2枚目 「俺がデザインしたんだから、一度ぐらい使ったていいじゃないか」じゃないだろう!それはゼロの剣なんだから!なんで悪逆皇帝が使ってるの!おかしいだろ!?ホント君はどこか抜けているよね! *** 「これは・・・」 「もう一つ、こちらをご覧ください」 9月21日の日記は画面の上へと移動し、今度は別の映像が大きく映し出された。 目に飛び込んできたのは青空だった。 そして、そこには多くのKMFが空に浮かび、陣形を描いている。 画面越しにも、緊迫している空気が伝わってくる、そんな映像だった。 「あれは、アヴァロンですか」 その陣形の奥には、ダモクレス戦で撃ち落とされたアヴァロンの姿もあった。ということは、この映像はあのダモクレス戦、あるいはそれ以前の物という事になる。 「はい。黒の騎士団より映像を提供していただきました。見ていただきたいのはこちらです」 そういうと、そのKMFのうち1騎をズームアップしていった。 このKMF軍の中で異彩を放つ漆黒のKMF。 ブリタニア製とは異なるデザインの機体の肩をアップにしていくと、そこには生身の人間が立っていた。はるか上空に、命綱も付けずに、立っているのだ。その姿だけでも背筋に冷たい物が走る。 顔の判別まではボケていて流石に無理だが、その衣装で誰なのかわかった。 「これは、悪逆皇帝!?いえ、ルルーシュ皇帝ではありませんか!?」 「はい、これはダモクレス戦での映像になります。ではこの映像を再生します」 動きだした映像では、悪逆皇帝は何やら手にし、まるで舞台の上の役者のように動き、その物をまっすぐ前へと突き刺した。不安定な足場での動きに、見ているこちらの心臓がぎゅっと握られた思いがし、いやな汗が流れた。 「音声はありませんが、調査の結果、ルルーシュ皇帝は、この時兵士たちを鼓舞するための演説を行ったことが解りました」 「こんな危険な場所で!?」 「はい、マイクを通し、全ての兵にその声は届いていたと」 指揮官でもある皇帝なのだから、こんな危険な場所ではなく、アヴァロンの中で済ませるべきだろう。だが、ルルーシュはKMF部隊の先頭に立ち、彼らを鼓舞するため命の危険も顧みずこのようなパフォーマンスを行ったのだ。 「見ていただきたいのは、こちらです。ルルーシュ皇帝が手にしているもの、何か分かりますか?」 「赤・・いえ、紫ですか?棒のようなものですね」 「では、こちらをご覧ください」 ミレイがそう言うと、その画面の一角に別の画面が現れた。 それは、今まさに皇帝を剣で貫こうとしているゼロの姿だった。 そのゼロが手にしている剣と、皇帝ルルーシュの手にしているものが切り取ら得れ、画面に表示される。 「これは・・・まさか」 「そして、先ほどの枢木卿の日記です」 画面上にあった文字が、二つの剣の映像にかぶさる。 「・・・ゼロの剣なんだから、悪逆皇帝が使うのはおかしい・・・まさか、これは・・・いや、そんなはずは」 長年司会者としても務めて来ていたアナウンサーは、今放送されていることも忘れたかのように、つぶやいた。 「同じ物です。皇帝ルルーシュは、自分を殺すゼロの剣を自らデザインし、この日、一度だけ自ら使用したのです」 記録に残らないはずの演説だった。 だが、戦闘情報の解析のため多くのKMFに標準装備されている録画機能は、この日の事をこうして残していたのだ。あの日、紅蓮など多くのKMFが失われたが、トリスタンと神虎は黒の騎士団が回収し、今も保管されていた。 「なぜ、何故ゼロの剣を、悪逆皇帝が!?」 「そうですね、何故、悪逆皇帝がゼロの剣を作り、そして所持していたのか。それも問題ですが、よく見てください。まだおかしなことがこの映像にはあります」 二つの剣の映像は消え、再びルルーシュが演説中の画面だけが表示された。 「この映像に、おかしな所が?」 「はい、解りませんか?」 「・・・恥ずかしながら全く」 「いえ、私たちが見ても解らないのは当然なんです。ですがこれは、黒の騎士団と、ブリタニア軍なら疑問を感じる映像なんです」 「黒の騎士団とブリタニア軍が?」 「見ていただきたいのはこちらです」 そう言って手を差し出すと、今度は皇帝が乗るKMFが大きく映し出された。 「ナイトメアフレーム、珍しいタイプですが」 「蜃気楼といいます」 「蜃気楼、ですか」 「はい、世界にたった1騎だけの、操作が大変難しいとされるワンオフ機です」 「悪逆皇帝専用機ですね。それのどこがおかしいと?」 「こちらをご覧ください」 再び手を差し出すと、今表示されていた映像が画面の右半分へ移動し、左半分に蜃気楼の鮮明な映像が映し出された。 「同じ機体に見えますが」 「同じ機体です。先ほども言いましたが、蜃気楼は1騎しかありません」 「これの何がおかしいのでしょうか」 「撮影された場所です」 「撮影された?」 「右の映像はブリタニア軍である皇帝ルルーシュが所持している映像ですが、左の映像は黒の騎士団の格納庫で撮影されたものです。この写真は黒の騎士団の資料から見つかりました」 「黒の騎士団!?なぜそこに蜃気楼が?」 皇帝の敵である黒の騎士団内に、ルルーシュの専用機があるのは不自然すぎる。 あってはならない事だった。 「私たち一般人には解らない事ですが、黒の騎士団そしてブリタニア軍人であったなら、この蜃気楼が誰の機体か、即答できます」 「・・・どういうことでしょうか」 それはつまり、それだけ有名な機体だという事だ。 このような廻りくどいいい方、悪逆皇帝の機体だという意味だけの話ではないのだ。 では、一体この機体にどのような秘密が。 「この機体は、ゼロのために製造された、ゼロ専用のワンオフ機です」 「ゼロの!?この機体はゼロ専用機だと!?」 あり得ない内容に、勤続20年を超えるベテランニュースキャスターは声を荒げた。 |